【書評】「経済で読み解く日本史〜江戸時代」またまた歴史の見方が変わる!

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こんにちは、霧島もとみです。

上念司さんの「経済で読み解く日本史〜江戸時代」を読んだ感想を紹介させていただきます。

経済で読み解く日本史・江戸時代表紙

経済評論家の上念司さんが「お金の流れに注目して日本史を読み解く」ことをテーマに書かれたこの本。

安土桃山時代に続いての第3巻です。

江戸時代の印象が変わる!
貨幣が与える影響が面白い!

という、新しい視点で江戸時代を楽しめる面白い本でした。

室町・戦国時代〜大正・昭和時代までの全5巻セットのうち、3巻目の「江戸時代」の感想として、特に面白いと感じた点を3つ紹介します。

その1:江戸時代の改革者の評価が変わる

江戸時代の改革といえば、享保の改革・寛政の改革・天保の改革が三大改革として有名です。

享保の改革:徳川吉宗(6代将軍)
寛政の改革:松平定信
天保の改革:水野忠邦

しかし経済の視点から歴史を読み解くこの本では、これら改革者の評価は一変しています。

経済政策で成果を上げた人物として名前を出しているのは荻原重秀・田沼意次・水野忠成の3名です。また、吉宗に貨幣の改鋳を進言した人物として大岡忠相の名前も上げています。

田沼意次・水野忠成といえばどちらかというと「賄賂が横行した悪徳時代」というようなイメージを学んでいたのですが、この本で評価しているのは改鋳によって通貨量を増加させて好景気を生み出したという点です。

幕府には通貨発行益による財政回復をもたらし、また、市場には適度なインフレーションを起こして経済の循環を回復させたという評価です。

逆に緊縮財政を敷いた三大改革については不景気を招いたとして低評価を与えています。

歴史の授業では「改鋳」といえば悪質な貨幣を流通させてインフレを招いたというように教えられましたが、経済学の視点では必ずしもそうではない事が分かります。

江戸時代の改革者のイメージが変わる視点に、面白い!と思いました。

その2:徳川家の財政構造と石高制の限界

三大改革にも関連しますが、歴史の授業のなかで「江戸時代はよく幕府が財政難に陥っていたなあ」という印象を持たされました。

財政難→改革→財政難→改革…の繰り返しみたいな感じだよねという印象です。

なぜそんなに財政難に陥ったのか?ということは考えたことが無かったのですが、この本ではその構造について解説しているのですが、これが面白かったですね。

まず根本的な構造として、徳川家の石高は400万石しかなく、これで3000万石の日本全国を治めなければならなかったこと。今の日本のように中央政府に税収を集約するような構造ではなかったんですね。驚きました。

当初は金山・銀山を抑えていたことにより豊富な資金のストックを有していたけれど、3代将軍まででこれらを全て使い果たしたことから後は必然的に財政難になったという指摘です。もともと財政難になるべくしてなったという構造だったという説明に納得できました。

また、石高制の限界についての解説も面白かったです。

石高制は米本位制ともいえる制度で、米を年貢として徴収する制度です。これは勿論知っていましたが、そこから一歩踏み込んで考えを巡らせたことはありませんでした。

年貢として徴収した米を売却して現金に変えなければならない制度であることから、この制度が安定するためには、米価と他の産品との価格の連動が前提となっています。

ところが、

江戸時代に農業の生産性が飛躍的な向上を遂げる
→農民一人当たりの収入増加
→生活必需品以外を購入
→米価以外が値上がり
→相対的に米の価値が下がる

という経済構造の変化が起こったことから、限界を迎えていったと説明しています。

こうなると米を給料として支給されていた武士階級は経済的に追い詰められていき、また、各地の大名も収入が減ることになります。

石高制の具体的なイメージがぐっと沸くとともに、時代に合わなくなった制度だったことも分かり、面白かったです。

その3:日米通商条約の為替レートの設定ミス

1858年にアメリカ全権タウンゼント・ハリスとの間で締結された日米通商条約は、日本の開国に関してペリーと同じく歴史の授業に欠かせない超有名な出来事です。

日本に関税自主権がない、日本側に不利な不平等条約であった…ことは何となく覚えていたのですが、この本では「為替レートの設定ミス」があったことに注目しています。

このミスにより「海外から日本に銀を持ち込むと価値が3倍になる設定」となり、銀が海外から流入し、金が海外に流出するという事態を招いたと。

これは知らなかった。チート状態だったんですね。。。

当時海外では金銀の含有量を基準に通過を交換していたのに対し、日本が金・銀本位制ともいえる複雑な貨幣制度を取っていたことや、交渉にあたった人間が貨幣制度について熟知していなかったことなどが要因だと指摘しています。

さらに、金の流出に対応するため1860年に小判の金の含有量を3分の1にする「万延の改鋳」を行ったことで、短期的に急激な貨幣量の増加が起こり、激しいインフレを招いたという指摘があります。

1850年代から1860年代の米価を比べると252%増!!
物凄いインフレです。

これにより次のような変化が起きたと書かれています。

激しいインフレにより庶民や武士の生活が困窮
→物価上昇の本当の理由は分からない
→身近な変化を原因だと考える
→開国が生活悪化の原因だ!!

幕府の経済政策で大失敗明治維新への流れに繋がったという経済からの視点がやはり面白く読めました。

次は明治次代

他にも江戸時代の経済の発展や、貧農史観の否定、百姓のたくましい経済生活など、歴史の授業では触れられていない経済の視点からのエピソードが多く書かれています。

海運業の発展や豪商の台頭、借金苦に苦しむ大名、幕藩体制が抱えていたデフレ・レジーム構造など、面白い話が山盛りでした。

かなり細かな点の説明も多くなり、ざっくりと紹介することが難しくなってきた感もあります。文庫版でありながら、かなりのボリュームに圧倒されました。

さて、次巻は明治時代です。

教科書では学ばなかった江戸時代→明治時代の経済の変化、つまり生活の変化はどのようにして行われていったのか?

またまた続きが楽しみで仕方がありません。


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【書評】「経済で読み解く日本史〜室町・戦国時代」経済で歴史が面白くなる本!


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【書評】「経済で読み解く日本史〜安土桃山時代」歴史の違う視点が面白い!

 

 

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