【書評】東野圭吾「手紙」社会性と人の繋がりの狭間で何を見る

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こんにちは、霧島もとみです。

今日は東野圭吾さんの「手紙」を読んだ感想を紹介させていただきます。

東野圭吾さんといえば超がつく有名小説家です。ですが実は、僕はこれまで読んだことがありませんでした。小説自体をあまり読んでこなかったから(ビジネス書ばかり読んでました)…というだけの理由です。

しかし小説の面白さ、活字に溺れる心地よさを最近知るようになったため、東野圭吾さんの本に手を伸ばしたのも自然のなりゆきかもしれません。

さてそこでなぜ「手紙」を読んだのか。

罪を犯して服役する兄と、犯罪者となった兄のおかげで世間から差別的な扱いを受け続ける弟との話に、自分が常々考えるところがある「人と人との関係性」に触れる何かがあるのではないかと思ったからです。

読んでみると、人間が持つ社会性という特質と、生来持っている人の繋がりという現象を描き出し、その狭間で揺れる人間の姿に想いを馳せずにはいられない作品でした。

静かに心を揺さぶられた感がありました。

「手紙」はこんな話

裏表紙の紹介文を引用させていただきます。

強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。(後略)
引用:「手紙」裏表紙

主人公は弟・直貴です。

強盗殺人の罪で服役中の兄の存在は、彼を周囲の人間から遠ざけていきます。そこに服役中の兄から手紙が届くのですが、その手紙は弟の苦しい生活とは無縁の、時間が止まったような手紙ばかり。

直貴は最終的に自分とその家族を守るため、兄と絶縁することを決意するのだが…という話です。

描かれる社会性と人の繋がり

この作品のテーマが何かを考えたとき、僕が感じたのは「社会性」と「人の繋がり」の存在でした。

第四章で、直貴が務める会社の社長・平野が直貴に次のことを話していました。

人には繋がりがある。愛だったり、友情だったりするわけだ。それを無断で断ち切ることなど誰もしてはならない。

ただね、会社にとって重要なのはその人物の人間性ではなく社会性なんだ。今の君は大きなものを失った状態だ。

本当の死と違って、社会的な死からは生還できる。

平野が言う社会性とは、直貴にとって「強盗殺人犯の弟」であることを指します。

兄の犯罪によって与えられてしまった社会性、それは否応なしに直貴が持っているものであり、会社にとってはその社会性こそが重要な点だと話しているんですね。

平野は人の繋がりという存在を認めながら、一方で社会性が評価されるのだから、それは社会においてむしろ当然だと言う。この二人の会話は、まだ直貴が兄との縁を完全に切ると考える前のことです。

そしてその後、直貴はもう一度平野と会話を交わすことがあり、その事がきっかけとなって兄との縁を切る決意をし、会社をも辞めていきます。

それは兄がもたらした社会性を自分から切り離し、自分と家族とを守るという選択によるものでした。それは一つの選択肢でしかなく、物語の中でそれが良いことなのか、悪いことなのかというような評価は与えられていません。

直貴は何度も兄のことで不利な取り扱いを受け、社会性の存在を、その影響の強さを思い知らされた結果、社会性を優先するという決断に至ったのでしょう。それは当然のことかもしれませんし、そうでないのかもしれません。

この時点で僕は、結局は社会性の中で生きざるを得ない人の姿を描いているのだな、と考えていました。

しかしそうではありませんでした。

社会性と人の繋がりの狭間で人間は生きている

物語はこれで終わりませんでした。

最後に弟・直貴と兄・剛志とが関わりを持つエピソードがあり、そこで直貴は縁を切ったはずの兄の存在に大きく心を揺さぶられます。

詳しい内容は控えますが、

縁を切ったと整理したはずの兄。
なのに実際には割り切れないもの=繋がりが二人の間に強くあることを感じさせるエピソードでした。

そしてこのエピソードにも、やはり何の評価も与えられていません。

社会性という大きなものを外に抱えながらも、それだけで切り離せない人の繋がりという存在を人間が抱えていることを知っておいてほしい。見ておいてほしい。

誰もがその狭間で生きていることに気付いてほしい。

弟・直貴の姿に、僕はこのような作者のメッセージを感じた気がしました。

僕も同様に、社会性と人の繋がりの狭間で生きています。

社会性は偶然に関わった人たちの見えない繋がりで構成され、自分一人の行動が、家族や親族への社会性にも大きく影響を与えることになるでしょう。もちろん、その逆もあります。

同時に人と人の繋がりもある。特に家族には、対幻想とも言える強い繋がりが存在しうる。

この2つを再認識しておくことが、生きていくうえで必要なことだと考えさせられた、哀しい作品でした。

 

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