【書評】篠田英朗「ほんとうの憲法」憲法についての新しい気付きがある本

霧島もとみです。

篠田英朗さんの「ほんとうの憲法」の感想です。

なぜ突然憲法の本なのかというと、日本を取り巻く国際情勢に不安定さが増していたりとか、コロナ対応ですっかり置き去りになった改憲議論がどうなったのとか、「日本とは?」「憲法とは?」を考える機会が増えたと感じたからです。

そして憲法学の本は色々ありますが、この本がいわゆる憲法学とは異なる視点で書かれた本だということで読んでみました。

副題が凄いですよ。「戦後日本憲法学批判」。憲法学に真向から異論を唱えています。

というのも筆者の篠田英朗さんは憲法学の専門ではなく、平和構築という政策領域を専門にする国際政治学者です。だから憲法学とは前提になる視点が違い、解釈が異なるんですね。

「国際協調主義」を重視した憲法解釈が篠田さんの視点です。

しかしこの本、めちゃくちゃ難しくて読みづらかったです。主張の根拠を歴史を追って滔々と説明していくのですが、基礎知識がほぼ無い私では全然頭に入ってこないんですよ。なかなか頭に残りません。

でも憲法に対して新しい視点を得ることができたとともに、既存の「憲法学」というものが決して唯一の正解ではないという気付きを得られたので、読んだ価値はあったなと思いました。

自分のメモ代わりに、本書の気付きをまとめておきます。

篠田氏の「憲法学批判」の概要

概要はこのような内容でした。

<問題提起>
・憲法を憲法学者という肩書を持つ者だけが独占的に解釈していると捉える

<その解釈の例>
・「立憲主義は権力を制限することだ」と断言
・憲法は統治権力者を一方的に制限する
・主権者は国民だ

<解釈を独占することの弊害>
・権力の制限の仕方を決める「解釈」を一人握りの人々からなる「法律家共同体」が決定する
・つまり憲法学者とその弟子たちが国政のあり方を決める

これらに対して、著者は次のように述べていきます。

<著者の主張の例>
・憲法は統治権力者を一方的に制限するのではなく、憲法規範による社会構成員全員を制限する
・現在の憲法はアメリカの占領統治の結果生まれた経緯を踏まえる必要がある
・当時の国際情勢の背景考慮が必要
・不戦条約や国連憲章と関連性がある
・つまり「国際協調主義」を重視する必要がある

これらの根拠や背景となる思想、戦前・戦後の憲法に関する動きが膨大なボリュームで紹介されています。最初に書いたように私にはとにかく難しい内容でしたので全部を理解できたわけではありませんが、おおよそこういった内容が本書の概要になると思います。

この本で得た気付き

私は専門的に「憲法学」を学んだことがありません。だからという訳ではありませんが、憲法を考える時には「憲法学」が役立つんだろうなと何となく思っていました。

テレビで憲法学者、憲法学が専門の誰々という知識人のコメントを聞いては、「憲法のことだから専門の憲法学者がいう事がきっと正論なのだよね」と感じていたんですね。

しかし、それが絶対でないことに気付きました。

誰しもが思想・価値観・伝統を抱えている。憲法がそのテキスト内で完結しない以上、何を前提にして読み解くかで意味が変わる。あくまで彼らのコメントは「彼らの憲法学」を前提にしたものでしかない、という気付きです。

篠田さんの主張はこの本を読んだ限り、論理的には筋が通っていると受け取りましたし、前提とする「国際協調主義」の視点も現在の国際情勢に沿ったものだと感じました。

国は国で完結するのではなく、国際関係の中で国を保っていかなければならない。それを肌身で感じる今はなおさら、篠田さんの視点が必要なのかなと思います。

「憲法は憲法学」という根拠のない色眼鏡で盲目的に受け取るのではなく、自分の頭で考えて判断しなければならない。当たり前といえば当たり前のことですけどね。

それと、「憲法規範は社会構成員全員を制限する」という考え方も、憲法学の主張だとされる「憲法は統治権力者を一方的に制限する」という考え方より、私にはしっくり来ました。

自分たちが幸福に過ごすために憲法をつくり、その憲法により国に権力を委任するのだから、その目的のために自分たちも制限されるのは当たり前じゃないかって感じたんですね。制限されるのは統治権力者だけなんて、何か当事者意識がないというか、対立構造が過ぎるというか、まるで他人事というか。

以前に「憲法主義~条文には書かれていない本質」という本を読みました。「憲法を暗唱するアイドルと気鋭の憲法学者による1億人のための憲法講義」がキャッチコピーの本です。

憲法や法律とは何なのか?をかみ砕いて解説した本でとても分かりやすかったのですが、改めて読んでみると、「立憲主義とは国家権力を制限する」「国民は憲法を守らなくていい」「憲法は国家権力に対して押し付けられるもの」「いまさら生みの親がどうのこうのと言われても」というような今回批判されていた内容が実際に主張されていました。

読んだ時に違和感はあったものの、まあ、こんなものかなということで流していたのですが、「憲法学」外からの視点を導入すると違和感の正体が浮き上がってきたように感じました。新しい発見でした。

 

憲法についてはまだ読み始めたばかりで何が妥当かなんてことはまだまだ分かりませんが、盲目的に価値観を受け入れるのではなく、それぞれの主張に思想・価値観その他もろもろの意図があることを十分に踏まえ、判断が必要なことは分かりました。

将来国民投票をするときに「何となく」な投票をしないよう、少しずつ備えていきたいと思います。

 

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