【3000文字チャレンジ】漫画家・山田玲司から得た絶望に効くクスリ

この記事はこぼりたつやさん(@tatsuya_kobori )が主催している3000文字チャレンジの参加記事です。

今回のお題は「くすり」です。

最初に連想したのは、山田玲司作「絶望に効くクスリ」という漫画の事でした。

読んだのはもう随分と前です。

作者が色々な著名人に話を聞いて絶望に効くクスリを探していく・・・というインタビュー漫画で、山田玲司さんの切り口と自己解説を交えながらの描写が面白く、楽しみながら読んだ記憶があります。

同時に、懐かしいなあという思いが甦ってきました。

僕は年齢=彼女いない歴という暗黒の青春時代を送っていたころ、友達に勧められた「Bバージン」という漫画を読み、胸をぐさっとえぐられたことがありました。

それから山田玲司作品に嵌り、彼の作品を買っては読み、絶望の中にいた自分と重ね合わせては涙を流していました。

山田玲司さんがどういう漫画家かというと、世の中に対して「こじらせた人」という表現が当てはまりまると思います。

だから、同じ様にこじらせた人である

・世の中の主流に対して疎外感がある
・自己肯定が苦手だ

という人には凄く共感できるところがあると思います。

僕は強烈に共感しましたし、影響を受けました。

そこで今回は漫画家・山田玲司の作品の中から代表的な作品3つについて、簡単な概要と、作品の中で僕が得た「絶望に効くクスリ」を紹介します。

Bバージン

山田玲司作品で一番売れた作品という印象があります。

時代はバブル期。

極限まで浮かれた空気の中、オタク・非モテとして高校までを生きてきた主人公が一念発起し、大学ナンバーワンのモテ男に変身するも本命の女の子以外とはやらない「Bバージン」を貫くという話です。

生物と亀が何よりも大好きだった主人公・住田秋は高校まで生物オタクとして好き放題に生きてきました。

オタクって今ではそんなに悪い響きでもないのですが、作品の連載当時は「オタク」という言葉には差別用語手前みたいな印象があり、この作品でもその様子が存分に描かれています。

何しろ高校時代の主人公のアダ名は「ヒクガエル」。卑屈なカエルみたいだからという屈辱的な呼び名です。

さらに、主人公を含めた生物部の仲間の描写が象徴的でした。

・自分を「せっしゃ」、相手を「おぬし」と呼び、語尾には「ござる」を付ける。

・チーム名は「ミトコンドリアンズ」。

・みんなくねくねしている。

楽しい世間から完全にはみ出した存在として描かれています。

そんな生物オタクの主人公・住田秋が、同じ高校に通うヒロイン・桂木ユイに一目惚れしたことと、失恋した姉の「理想の男になって欲しい」と泣き付かれた(脅された?)ことから、地獄の修行期間を経て、大学入学とともに学内ナンバーワンのモテ男に生まれ変わるのですが・・・。

では、ストーリーと見どころをざくっと紹介します。

ストーリー

・ドーテーのまま学内ナンバーワンの女殺しの異名を与えられる主人公・住田秋

・桂木ユイを勝ち取ろうとヤンエグの男と争う

・女を喜ばせるロボットのようになっている自分を思い知らされてアイデンティティーを見失う

・本当に自分の好きな事で一流になろうと水族館でバイトを始める

・Jリーガー候補と桂木ユイを賭けてPK勝負する

・水族館をショー化しようとする館長に反乱し、イルカを逃がして国外逃亡

なかなか波乱万丈というか、荒唐無稽というか、破天荒なストーリーです。

見どころ

・住田秋の苦悩と成長

・住田秋を助ける仲間

・バブル期の浮かれた様子

・筆者のモテ理論

・生物ネタ

このあたりに注目して読むと面白いです

僕が「Bバージン」から得たクスリ

僕がこの漫画に出会ったのは19歳の時でした。

漫画オタクで見栄えもしない僕は、主人公と同じ大学という舞台に通いながら、勉強と実験とサークルでほぼ男ばかりの非モテ生活を満喫していました。

この漫画の初期に描かれていた「男は見た目、さわやかさ、ノリと面白さが全て」という世界観を真に受けて、自分とのあまりの違いに涙したことを覚えています。

ではなぜこの漫画にハマったのか?

それは、次の「絶望に効くクスリ」をこの漫画から読み取ったからです。

クスリ1:人間は変われる

主人公・秋は生粋の高校生まで生粋の生物オタクでしたが、大学ナンバーワンの女殺しの異名を与えられるまでに変わりました。

その後もいくつもの壁にぶち当たる度に、勇気を奮い立たせ、壮絶な努力を行い、自分を変えて壁を乗り越えて行きます。

山田玲司さんは、その姿を決して格好良くは描きません。どちらかというと無様で、ありのままな、等身大な姿を描きます。

だからこそ読者は、僕は、Bバージンを読みながら

「人間は変われるんだ」
「僕も変われるかもしれない」

と強く考えられたんだと思います。

人間は変われる。

これが1つ目のクスリです。

クスリ2:誰かが君を助けてくれる

主人公・秋は話の中で色々な人に助けられながら前へ進んでいきます。

でも最初から助けられる存在だった訳ではなく、自分の姿をさらけ出し、正面からぶつかりあっていくことで、彼を助ける人が現れてきます。

彼らは、大学ナンバーワンのモテ男・住田秋を助けたのではなく、

生物オタクで運動神経ゼロで女性経験皆無で本命の彼女には振り向かれないけど彼女への恋心を貫きたい住田秋

を助けたんですね。

自分自身の姿に正面から向き合い、格好付けずにありのままをさらけ出して戦っていくことで、そこに共感して助けてくれる人が現れるかもしれない。

僕は強く感動し、わずかながら希望の光を感じました。

誰かが君を助けてくれる。

これが2つ目のクスリです。

ストリッパー

細かいストーリーは忘れました。

確か美大志望の高校生が、油絵を溶かす「ストリッパー」という薬剤で悪さをするような話だったと思います。

そんな曖昧な記憶しかない作品をなぜ紹介するのかというと、とにかくガツンと殴られたような衝撃を感じたからです。

世界観はとにかくぶっ飛んでいて、この漫画を読んでいる内に、世界は一枚捲ったら狂気の塊でしかないのではないか?という疑心暗鬼に囚われるような錯覚を覚えました。

山田玲司さんにとっては「世界への復讐」とも言える作品だったようです。

僕が「ストリッパ―」から得たクスリ

そんな混沌な作品から僕はどんなクスリを得たのか?というと、「狂気」の存在に触れたことでした。

クスリ3:狂気の世界へようこそ

登場人物全てが狂っている作品です。

僕は作品の隅々にまで作者の狂気を感じ、圧倒されました。

しかし、何度か読んでいるうちに冷静さを取り戻し、その狂気は、社会を受け入れられることができない弱さの側面があると考えるようになりました。

最終的に僕がこの作品から受け取ったメッセージは次の3つでした。

・この世界は狂ってると思えば狂ってるし、そうじゃなければそうじゃない

・狂気は、現実を受け入れられないことからの逃避かもしれない

・とりあえず俺の狂気を、苦しみを見てくれ

こんな狂気の世界もあるんだよ、という僕がやがて受けるかもしれない苦しみを、最初に予防薬として見せておく役割を果たしたのかもしれません。

狂気に対するワクチンだったのかもしれないですね。

これが3つ目のクスリです。

アガペイズ

僕が一番好きな山田玲司作品です。

主人公はヴィジュアル系人気ロックバンドのヴォーカル兼ギターの男子高校生、水樹百合。
容姿端麗、優れた音楽性の彼は、実は同性愛者で、同じ高校に通う野球部の金田虎輝に惚れている。

金田虎輝の夢は甲子園に行くこと。

惚れた男の夢を叶えるために、スポーツなんてやったことがない運動神経皆無の男が野球に挑み、風水の力を駆使して無敵の投手として活躍するという話です。

では、ストーリーと見どころをざくっと紹介します。

ストーリー

・水樹百合が片思いの金田虎輝の関心を引きたいため、野球の経験もないのに「リトルで凄いピッチャーだった」と嘘をつく

・風水集団「アガペイズ」と出会い、風水の力を駆使した魔球を教わる

・虎輝の夢が甲子園に行くことだと知り、「俺がお前を甲子園に連れていく」と宣言する

・風水の魔球を使うたび、百合は自分の大事なものを一つずつ失っていく

・地方予選の決勝で最後の魔球を投げ、ミュージシャンとして大事な声を失う。百合はチームを去る。

・甲子園初戦でチームは惨敗。

・百合の声を取り戻すため、次は風水の力無しで甲子園に行くことを目指す。

・ここで打ち切り。

見どころ

・主人公とヒロインのアガペイズ

アガペイズは、キリスト教の「神の人間への無償の愛」を意味するアガペーが由来で、作中では「見返りを求めない無償の愛」として定義されています。

主人公の水樹百合は「ただ好きな男の夢を叶えてあげたい」と思い、ヒロインの雨野渦女は「ただ百合を助けてあげたい」と思い、自分のことを顧みず相手のためだけに行動します。

同性愛者である水樹百合の恋心は虎輝に受け止められることはなく、雨野渦女の恋心も、同性愛者である水木百合には届きません。それにも関わらず、彼らはただ相手のことを考えて行動します。

彼らの無償の行為に心が洗われるような気がしました。

漫画のタイトルにもなっているように、この作品の最大の見どころです。

・野球✕風水というトンデモ設定

僕は野球にはあまり詳しくないのですが、それでも分かるくらいに野球の描写はメチャクチャです。

漫画の仕掛けなのでしょうがないのですが、

風水の相性が相克だと滅法弱く、例えば「火」に属する選手は「水」の魔球に手も足も出ません。

対戦相手の生年月日を事前に調べておき、常に相克風水の魔球で攻めるという戦略が展開されます。

さらにこれを逆手に取って、偽の生年月日の情報を流して逆の相克で攻めるという情報戦も展開されたりもします。

なんじゃこりゃって感じでした。

一風変わった野球漫画として読んでみると面白いかもしれません。

野球好きな人は「見るに堪えない」と感じること請け合いですが、ある意味ギャグ漫画として感じてもらえれば幸いです。

さんざん風水の力で活躍させておきながら「風水で幸せになれるなんて幻想だよ」と吐き捨てる山田節

既に書きましたが、この漫画は主人公が風水の力で野球をするという話です。

風水魔球を努力によって習得し、その力で対戦相手を倒し、愛する男・虎輝を甲子園へ連れて行きます。

さんざん風水の力を見せつけておきながら、

「風水で幸せになれるなんて幻想だよ」

と読者をどん底にたたき落とす山田節が炸裂します。

僕は震えました。

作者が言いたい事と逆の方向性でストーリーを進めておき、主人公を行き詰らせてドン!と奈落に突き落として「そうじゃないんだよ」とメッセージを添えるという技法。

アガペイズではこれを骨の髄まで感じることが出来ると思います。

僕が「アガペイズ」から得たクスリ

クスリ4:主人公とヒロインのアガペイズに見る愛の姿

既に触れたとおり、主人公とヒロインはそれぞれ無償の愛で行動します。

主人公はゲイで、好きな男は決して振り向かない。それを知っていながら、彼の夢を叶えるために尽くしていく。

ヒロインも同じように、ゲイの主人公が自分に振りむかないことを知っていながら、彼の夢を叶えるために尽くしていく。

その純粋な姿に僕は心を強く打たれました。

非モテの僕は男女の愛を誰からも貰えていないことに大きな苦しみを持っていましたが、

「自分は、彼らのように誰かを思い行動することはできていない」

「自分の苦しみは、ただ自分が愛されたいという我欲でしかないのでは?」

というように自分の感情を見つめ直すきっかけになりました。

今も僕の心に効いています。
出会って良かったと思えるクスリでした。

クスリ5:希望の言葉

山田玲司さんの作品では、主人公は悩み苦しむ絶望の時を経験します。

それに対して必ず優しい、あるいは厳しい励ましを贈る仲間が現れるのですが、そこで投げかけられる言葉は絶望に効くクスリだと言えるでしょう。

その中で一番心に残っている言葉がこれでした。

「君は一度も求めず一度も逃げなかった。闇の中で戦い抜いた日々は君を裏切らない。決して裏切らない・・・」

僕はまさに非モテという闇の中にいました。
対人恐怖症・女性恐怖症という闇の中で、それでも誰かに愛されたいと、出来る限りの努力をしていました。
(努力の方向性は大分間違っていたようですが・・・。)

途方もない孤独感と絶望の中でも僕が僕を支えることができた理由の一つに、この言葉があったと思います。

胸に残る希望の言葉でした。

まとめ

漫画家・山田玲司さんの3つの作品から僕が得た「絶望に効くクスリ」を紹介しました。

絶望に効くクスリ
クスリ1:人間は変われる(Bバージン)
クスリ2:誰かが君を助けてくれる(Bバージン)
クスリ3:狂気の世界へようこそ(ストリッパー)
クスリ4:主人公とヒロインのアガペイズに見る愛の姿(アガペイズ)
クスリ5:希望の言葉(アガペイズ)

山田玲司さんの作品は正直なところ万人受けするものではないと思います。しかも厨二病的なエッセンスも多々含まれていると思います。

でも僕が絶望に効くクスリを手に入れたように、悩み苦しみ、絶望を感じたことがある人には、希望を与える事が出来る力があると思います。

「こんな作品がある」ということを記憶の片隅に置いていただき、苦しみの最中にあるとき、思い出していただければ幸いです。

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