【書評】恩田陸「ネバーランド」モラトリアム&友情が胸に染みるエンタメ作品!

こんにちは、霧島もとみです。

恩田陸さんの小説「ネバーランド」を紹介させていただきます。

恩田陸さんは「蜜蜂と遠雷」で第156回直木賞、第14回本屋大賞をダブル受賞した作品された小説家さん。

「蜜蜂と遠雷」、かなり面白い小説でした。

活字なのにキラキラと音が降り注ぐように感じる素敵な音楽の世界。登場人物たちが繰り広げる青春物語。超一級のエンターテイメント小説でした。

また恩田さんの作品を読みたいなと思い、買ったのがこの「ネバーランド」だったんですけど、何でもいいから読もうという曖昧な期待で買った本だったんですね。

ところが。

そんな期待を大きく裏切る、面白い作品でした。

4人の男子高校が年末の学生寮で過ごすささやかな青春劇なんですけど、

  • 学生独特の懐かしいモラトリアムな空気間
  • 俯瞰で見た友情の形
  • 私が友人との関係に抱えていたわだかまりの再評価

という3つの印象的な読書体験ができました。

読書記録としてまとめておきます。

「ネバーランド」はこんな話

舞台は伝統ある男子校の寮。

冬休みを迎えて多くの寮生が帰省していく中、事情を抱えた4人の少年が居残りを決めます。

物語で描かれるのはそのうちの7日間。

そしてクリスマスイブの日の「告白」ゲームをきっかけに、それぞれが抱えていた事情や秘密が次第に明らかになっていき…という割とシンプルなストーリーです。

ストーリー的に面白い点が何かというと、まず4人とも、普通の高校生としては重たすぎる秘密を持っているところです

どんな秘密かをここで書いてしまいたい衝動に駆られますが、ネタバレすると作品を読む時の面白さがドンと下がってしまうので、心を鬼にして我慢します。

次に面白い点が、4人の主人公たちが、お互いを知ってはいたものの、特別に親しい友人ではなかったというところです

この「それぞれが抱えた重たすぎる秘密」と「特別に親しくはなかった4人の関係性」の掛け算が、7日間という短期間の友情劇を強く印象的なものにしています。

秘密がいつ明らかにされるのか。

お互いの秘密にどう向き合っていくのか。

4人の関りがどう変わっていくのか。

全く目が離せません。

また、1章が1日で構成されているんですけど、各章の終わりのヒキの強さが凄いです

「えっ、急にそんなこと言い出して、次これどうなるの!?」

と強烈に続きを読みたくなります。

そんなエンタメ的な仕掛けも盛りだくさんな作品です。

「ネバーランド」での印象的な体験

学生独特の懐かしいモラトリアムな空気間

この小説の主人公たちには目的がある訳ではありません。

何かを目指して奮闘する物語でもありません。

生徒が帰省した年末の学生寮でただ日常を過ごすだけ…なんですけど、この「何をするでもない」モラトリアムな空気間が最高です。

モラトリアムな空気間は、舞台設定と、主人公たちの行動から感じられます。

 

まず舞台設定。

人の気配が消えた学生寮、それも年代物の古い建造物という舞台設定がなんとも物寂しい雰囲気を醸し出しています。でも、そこは4人だけの誰にも邪魔されない空間。非日常感、開放感に溢れるとともに、舞台そのものに何か「秘密な空気」を感じて、ワクワクしてしまいました。

この日常から切り離された空間に、「モラトリアム」な魅力を感じました。

 

次に主人公たちの行動。

本当に、大きなドラマはないんですよ。冬休みの寮での生活をただ過ごしていくだけ。料理を作ったり、勉強したり、運動で汗を流したり。また、夜にはこっそり酒を持ち込んで宴会したり、カードゲームで「告白」をさせる遊びをしたりと、高校生なら誰にでもありそうなごく普通の生活を送ります。

物語は4人それぞれの「秘密」が明かされていくことで進んでいきますが、ベースにあるのはこの普通の日常生活です。

普段の学校生活から解き放たれた、ただ毎日を過ごすだけの空気間。4人の行動からはこの「モラトリアム」感が強く溢れていて、見ているだけで楽しく、懐かしくなります。

このモラトリアムな魅力は、読後感としてもしっかり残っています。

俯瞰で見た友情の形

この小説の登場人物の4人はそれぞれが重たすぎる秘密を持っています。

話が進むに従って明らかにされていくのですが…。

私が唸らされたのは、4人の友情の形です

 

作中で4人の秘密はそれぞれ明かされますが、それらに対して4人が何か問題解決をするという訳ではありません。

「よし!それなら俺たちで何とかしてやろうぜ!」

的な展開はありません。話を聞き、意見を交わし、4人の7日間という時間の中で昇華していくだけなんですね。

結果的には、4人ともそれぞれの秘密に自分自身で向き合い、解決していくことになります。

 

最初は「何だかあっさりした話だな」とも思いましたが、少しして、現実的にはこれが正しい友情の姿なのかもしれないと考えるようになりました。

 

というのも主人公たちは高校生なんですよね。自分自身に経済力がある訳ではなく、出来る事には限りがあります。他の3人の環境を一変できるような力なんて誰にもありません。

出来るのは、話を聞き、関わり合い、秘密を共有し、一緒の時間を過ごすことだけ。

何かが出来る訳でもない。自分の感情を上手く表現できないこともある。でも相手のことは心配になり、何かしたいと思う。

だけど。こういう感情を持ち、一緒に過ごすことそのものが一つの友情の形かもしれないと思いました。

 

確かに直接的な助けにはなりませんでした。でも私は、学生寮で過ごした7日間があったことが、確実に4人の救いになっていたという事を感じました。

もしもこの4人で過ごした7日間が無かったら、最終的にそれぞれの秘密に向き合った時には、きっと違う形になっていたんじゃないかなって思うんです。

だから4人の友情には価値があった。

4人の姿を俯瞰的に見る事で、私はこんなことを考えました。

私が友人との関係に抱えていたわだかまりの再評価

「ネバーランド」を読み終わり、私は友人との関係の中に抱えていたわだかまりを思い出しました。

 

友人Aは才気あふれるちょっと破天荒なところがある男です。

高校生の頃か、大学生の頃か…正確には忘れましたが、私は彼からその破天荒ゆえのトラブルを引き起こした話を聞きました。学生としては少し大きなトラブルで、最終的には保護者が出て話を付けることになるというような話でした。

今考えれば当たり前のことかもしれませんが、この時に私は何もすることができませんでした。

経験も知恵も経済力もなく、無鉄砲な度胸もなかった私は、ただ彼の話を聞くことしかできませんでした。

 

この時、私は無力感に苛まれました。

また同時に「何も出来ない自分は友達失格なのではないか」という思いを強く感じました。

それからずっとこの感情は私の中にわだかまりとして残っていました。友人として付き合いながら、どこか引け目のようなものを感じていたんですね。

 

でも「ネバーランド」を読み終わった時、私は4人の姿に自分自身を重ねました。

そしてこう思ったんです。

 

「友達失格なんて思っていたのは、ただの勘違い野郎だったんじゃないか」

 

作中の4人は、ただ秘密を共有し、一緒の時間を過ごすことで救いを得ました。

Aもその時、自分…というか友人に求めていたのは、ただそのことだけだったんじゃないかと。

 

今考えれば、きっと友人Aは私に何か助けを求めた訳ではなかったと思います。具体的に助力を求められた訳ではなかったし、また、彼も私が助力にならないことは分かっていたと思います。

だから、話を聞く。起こった出来事を共有する。心配する。ただそれだけでよかったのかなという気がしてきました。

友達という関係に自意識過剰になり、厨二病全開で勘違いをしていたんだなという気がしてきました。

次にAと会う時には、少し違った気分で会えるかもしれない。

「ネバーランド」は、私自身が友人に抱えていたわだかまりを再評価するきっかを与えてくれました。

 

以上が、「ネバーランド」で得た私の読書経験です。

学生時代のモラトリアムな空気間、エンタメ性溢れる展開の面白さ、無力な学生ならではの友情の姿など、見どころの多い楽しい小説でした。

恩田先生、凄いです。

また違う作品を読ませていただきます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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