霧島もとみです。
ブラックな労働経験者として、 時間外労働120時間/月・1000時間/年を体験した2シーズンのことを振り返った記事を書きました。
今回はこのシリーズの1つとして「総務の人事担当と長時間労働についての面談をした」という話を書きます。
時間外労働が一定ラインを超えると産業医の面談が必要になる(または本人が望んだ場合は面談させなければならない)ことは私も知っていましたが、制度上、人事担当が面談をする必要性については未知でした。
とりあえず私の所属長(管理監督者)と一緒に面談を受けたのですが、これが何とも煮え切らない面談でした。
面談を通して得られたものが何もなかったんですよね…。
私としては、「時間を無駄に取られた!」「余計なプレッシャーだけ掛けられた!」「総務の姿勢はどういうことなんだ!」と、正直腹立ちだけが大きくなるという結果に終わりました。
しかしメンタルヘルス・マネジメント検定2級の受験を通じて、総務としての姿勢というか立ち位置の片鱗を伺い知ることができた今、あの面談は総務としては必要なものだったんだなということが分かりました。
長時間労働に負けずに頑張っていた社員(私)が総務の何に腹を立てたのか。また、総務としては面談で何をしたかったのか。
ここに見える社員と総務のすれ違いの構図って何だったんだろう。気になって、このくだりを思い出して書いてみることにしました。
私の当時の心の叫びと、すれ違う社員と総務の滑稽な姿を感じていただければ幸いです。
面談で話したこと
まず、面談の内容をかいつまんで紹介します。
面談に参加したのは4人でした。
【面談参加者】
・総務…人事担当と管理監督者
・私…私と管理監督者
ちなみに人事担当者とその管理監督者も面識がある人で、全くの初対面ではありませんでした。
当時の私の基本姿勢
面談にあたって、私は自分の状況をこう考えていました。
- 健康的には問題ない
- 乗り越えなければいけないヤマがある
- そのため一時的に仕事量が多くなっている
- 納期には支障ないスケジュールで進行している
- 自分の権限の範囲内で必要な業務分担はしている
- 以上から、自分としては問題ないと考えている
簡単にいえば「目の前の仕事で忙しいし、問題ないから、意味のないことで時間を取らないでほしい」という状態でした。
面談の理由が私の長時間労働にあることは間違いなかったので、もしかして何か横やりが入るのか?という恐れを少々抱きつつ、でも問題はないからさっさと終わって欲しいなあ…と考えながら、面談に臨みました。
主なやりとり
それでは、主な面談のやりとりを紹介します。
総務の発言を「」で、私の返答を…に続けて書きますので、そのように読んでいただければ幸いです。
・体調はどうですか?
「時間外労働が多くなっていますが、体調に変わったところはありますか?」
…特に変わったところはありません。
「夜眠れないとか、気が重いとか、腹痛が続くとか、そういう変化はありませんか」
…特に問題はないと思います。産業医の面談も受けましたが、『問題ないよ。若いから大丈夫』と言われましたし、大丈夫だと思います。
※特に当たり障りのない話でした。これに続けて、過労死ラインだよという宣告が突然打ち込まれてきました。
・はっきり言って過労死ラインですという宣告
「体調に問題はないということですが、最近の霧島さんの時間外労働の時間数を見ると、◯◯時間・◯◯時間・◯◯時間と続いてて、はっきり言いますけど一般的な過労死ラインを超えてますよ。その自覚ってありますか?」
…(えっ、過労死?何それなんかの脅し??)そうですね。特に自覚はないですね。
「過労が原因だと判定されておかしくないラインということですけど、実際に健康に支障が出てもおかしくない、突然死んでしまってもおかしくないというラインを超えているということなんですよ」
…分かりました。危険性があるということで、十分気をつけるようにします。教えていただいてありがとうございます。
※続いて「ワークライフバランス」に話題は移りました。まだ「働き方改革」という言葉が出ていない頃でしたので、ほぼ同じ意味で使われたんだと思います。
・ワークライフバランスをどう思う?
「ワークライフバランスって聞いたことはありますか?」
…はい。知っています。
「ワークライフバランスを充実させていこう、っていう取り組みをやっていることは知っていますか?」
…はい。それも知っています。
「それについてはどう考えていますか?」
…はい。良い取り組みなので、やれる人がやればいいと思います。
「なんだか投げやりな言い方ですね」
…そういう訳ではないです。今の私の状況ではワークライフバランスを充実させるよりも、優先順位として、目の前の仕事に集中する方が高いと判断しているという話だとおもっています。状況が変われば、ぜひワークライフバランスも充実させいきたいと考えています。
※とは言いながら「ワークライフバランスって何それ暇なの?www」って考えてました。多分それが態度に出てしまってたんでしょうね。この辺りから、総務の方の態度がちょっと変わったように感じました。
・前と大分印象が変わってる。
「霧島さんのことは僕も前から知っているし、仕事以外で一緒に活動していたことがあるから言うんだけど、ちょっと印象が変わった感じがしますよね」
…そうでしょうか?
「今日の受け答えの様子を見ていると、何だか投げやりな感じに聞こえるんですよね。そんなことありませんか?」
…(おっと態度に出てしまっていた?)投げやりなつもりはありませんでした。そのように受け取られてしまったとしたら、申し訳ありません。
「以前は何でも前向きな意見を言う感じだったから、それと比べて、随分印象が変わった感じがするんですよね」
…(この状況で前向きな意見ってちょっと難しいのでは…)自分ではちょっと分かりませんが、そうでしょうか。
「そう感じますね。ワークライフバランスの事もそうですが、全部他人事のように話している気がするというか、投げやりというか、そんな感じがするんですよね」
…そうですか、自分ではちょっと分からないですけど。
「では、お渡ししたペーパーを見てください」
※と、ここで渡された資料のうち「父親を過労死で亡くした娘の手紙」を見るように言われました。
こんなものどこのネットから拾ってきたんだよ…と思いながら目を通しました。
・父親を過労死で無くした娘の手紙
「どのように感じましたか?」
…(急に言われてもなあ・・・)はい。悲しいことですね。僕にも娘がいますけど、同じようなことはさせたくないと思いますね。
「そうですよね。ところで、このお子さんに『タイムマシーンで過去に戻れたらどうしたいですか?』と聞いたとき、どう答えたと思いますか?」
…そうですね、ちょっと分からないですね。
「仕事に行くのを止めてと言いたい、というような答えだったそうですよ」
…(まさか泣き落とし?)そうですか。
「それでは、次のペーパーを読んでください」
※次に促された資料は、当時話題になっていた大手広告代理店で自殺した方の家族の手紙と思われるものでした。
はい来た。そう思いました。
・当時話題になっていた大手広告代理店で長時間労働を苦に自殺したとされる方の家族の手紙
「どうでしょうか。実際にこういう事例が起きています。そして過労死ラインを超えているということは、他人事ではないってこなんです」
…そうですね。
と、不愛想な返事を返しながら、このとき私はこんな事例を持ち出した総務の対応に静かに腹を立てていました。いわゆる「カチンと来た」状態になっていました。
カチンと来ていた私は、これ以降を基本「はいそうですね」モードで応対することになりました。
(※その理由は後で書きます)
そして2つの事例を紹介した総務さんは、幾つかの項目を宣言するかのように話していきました。
・家族にはあなたしかいない。家族のためにも自分を大事にしないといけない。
「家族にとって、あなたという人間は1人しかいません。会社にとって社員は替えが利くかもしれませんが、家族にとってあなたは替えが利かない人間なんです。父親を失った娘さんの手紙を読んだでしょう?あなたは家族のためにも自分を大事にしないといけない」
…そうですね。
「家族に悲しい思いはさせたくないですよね」
…そうですね。
話は続きます。
・このままの状態が続くと良くない。改善が必要。
「話したとおり、過労死ラインを超えている状態です。心臓に負担がかかって、急に死んだりすることもあったりします。このままの状態が続くと良くないので、改善が必要ですよ」
…そうですね。
「業務の状況もあると思いますが、体のことを考えて、バランスを取るように考えることが必要だと思います」
…そうですね。
「今の業務の状況はどうですか?」
…ある程度ヤマは見えてきたので、もう少ししたら、時間外労働も抑えることが出来るようになると思います。ただ、それまでの間はやはり業務量が多くなるのはやむを得ない状況だと考えます。
・時間数を抑えられるの?という話
「具体的にはどれくらいの期間で、どれくらいの時間数になりそうですか?」
…これまでの状況と比べて、○ヵ月で、○○時間/月くらいはかかりそうです。
「○○時間のラインを超えると危険度が高くなると言われていますが、そこは抑えられますか?」
…出来る限り頑張ります。
「改善をするように頑張ってみてください。もし、危険な状態を超えそうだと判断した場合は、人事の立場から配置換えや業務停止命令をすることもありえますので、よろしくお願いします」
…わかりました。頑張ってみます。
「でも、大分元気そうだったので少し安心しました。といっても危ない状態であることに変わりはないので、十分に気を付けて、出来る限り早く改善するようにしてください」
…(あれ?最後に急に柔らかくなったなあ。何だったんだ・・・)はい。ありがとうございました。
以上で面談は終了しました。
何だったんだ…という手応えのない変な感じでした。
さて、途中で「後で書きます」と書いた、一番カチンと来た件のことをここで触れておきます。
一番カチンと来た件
実は、弊社でも過去に過労が原因とされる死亡案件があったんです。
でもね、そのことに総務さんは一言も触れなかった。
これが私は一番カチンと来ました。腹が立ちました。社員にしてみればね、総務としての立場としては、そこって相当に重く受け止めないといけない案件なんじゃないのと。
それを受け止めて、反省して、今はこう考えている…なら分かるんですけどね。それをなぜ広告代理店の話を引き合いに出すのかが理解できませんでした。
それこそ、まるで他人事じゃん。
そうか、結局社員のことなんて総務にしてみれば他人事でしかないってことね。ハイハイ。
それとも自社の案件のことなんて、誰も覚えてないとか知らないとか考えていたんでしょうか。いやいや、覚えてない訳ないですよね。重大案件ですよ?それに触れないなんて白々しく映るとか思いませんか?
と、私の魂に刺さらないどころか、苛立ちと諦めにトドメを刺すことになりました。
面談のその後…
その後、以前の記事に書いたとおり、シーズン2は無事に乗り切ることができました。
面談後も長時間労働は若干続いたものの、私は体調を崩すことはなく、また、総務さんから示されたラインを超えることはありませんでした。
その後、総務さんが言っていた「臨時の配置換え」「業務停止命令」も発動されませんでした。
総務さんとしては問題が起きなかった(あるいはそういう事態が回避できそうな見通しが付いた?)ことで、とりあえずOKという事だったんでしょうね。
面談自体は「???」なものでしたが、私としては、業務を完了させることができたし、体調も崩すことはなかったし、途中で横やりを入れられることもなかったしで結果良ければすべて良しということになりました。
あの面談は一体何だったんだろうという疑問だけが残ることにはなったのですが、その後メンタルヘルス・マネジメント検定の勉強をすることで総務さんの立場を少し理解することができたと思います。
最後に、総務さんの立場からの面談についての考察を書いておきます。
総務さんの立場から見れば…
総務さんの立場から見た今回の面談の意義について、メンタルヘルス・マネジメントの観点から、幾つかの点から考察していきます。
安全配慮の責任者は「管理監督者」
まず、労働者に対して安全配慮義務を履行するのは管理監督者とされています。
なので長時間労働や健康面の状況を見ながら必要な措置をしていくのは管理監督者の役割であり、直接的には総務さんの役割ではありません。
もちろん組織として安全配慮義務を有していますから、その点では各部署の管理監督者に対して「ちゃんとしてね」ということは総務さんも言っているでしょう。
だから総務さんとしては間接的な役割が主なはずです。直接対象者と面談しなければならなかったという話ではない。少なくとも、私が勉強した範囲では見つけられませんでした。
ではなぜ、総務さんはわざわざ面談をしたのでしょうか?
アリバイ作りが必要
考えられるのは、アリバイ作りです。言葉は少し悪いですけど。
メンタルヘルス・マネジメントには、労働者の健康に配慮して生産性を向上するという意義があると考えられています。
一方で、会社側としてはリスク・マネジメントの意義があります。不幸にも過労死などの労働災害が発生してしまった場合に、会社として訴訟に対応できるだけの措置を事前に行っておくことでリスクを最小限に留めようという発想です。
今回の面談には、どちらかというとリスク・マネジメントの発想の方がしっくりくると感じました。
つまり私に「健康に仕事できるように改善させる」ことが一番の目的ではなくて、「健康に仕事できるように改善することが必要だよ。危険な状態だよ。と直接伝えた。かつ、状態を把握することに務めた」という事実を総務さんとしてやっておくことが目的だったのではないかという発想です。
守るべきは社員?会社?
社員としては「社員を守ってくれる」と考えて当然かと思います。そのための総務だよねと。
しかし総務さんとしては、最終的に守るものは会社であり、そのために社員を守るという優先順位を考えていたとしても、立場上やむを得ないと思います。いやむしろ、そう考えるべき立場なのかもしれません。
総務さんになったことが無いのでここは想像の域を出ませんが…。
でもそうだとしたら、総務さんの主導で行われる行動は、基本は会社を守るためにある、会社の利益を最大化させるためにあると考えるのが当然になります。
総務さんは会社を守る。
一方、社員は誰が守るんでしょう?当時の私は「会社が社員を守らないといけない」という風にどこかで考えていました。社員は会社のために仕事をしているんだから、という発想です。
ここがすれ違っていたんですね。
ここがすれ違っていたから、面談に私は「煮え切らなかった」「何も得られなかった」としか考えられなかったんです。
じゃあ社員は最終的に誰が守るんでしょうか?
自分自身です。当たり前のことですけど、自分のことは自分自身で守るしかないんです。
逆に、自分が自分自身を守らない状況で、一体誰が自分を代わりに守ってくれるというのでしょうか?
とういうことで、今回の面談については、総務さんは総務さんとして会社を守るための仕事だった。行動だった。そう仮定すると、面談で話された内容も、メンタルヘルス・マネジメント的な観点でも、筋が通るように考えることができました。
まとめ
ということで総務さんとの面談について、記憶を掘り起こして書いてみました。
当時の私としては「煮え切らなかった」「何も得られなかった」面談だと考えていましたが、その理由は、私自身の勘違いにあったということが分かりました。
それは
「一所懸命仕事をしているのだから、最終的には会社が自分を守ってくれるはず。自分は仕事をすることだけを考えていればいい」
という勘違いでした。しかし総務さんの優先事項は会社を守ることで、そのためのリスクマネジメントを行っていたに過ぎないのであれば、すれ違うのは当然のことでした。
私は少なくともこう考えるべきでした。
「自分自身は、自分自身で守る。そのために必要な行動があれば、自分が行うべき」
ひょっとしたら、この観点で考えても、総務さんは何かヒントをくれようとしていたのかもしれませんけどね。
以上、長時間労働時代の総務さんとの面談の話でした。
自分自身を守るのは自分自身の役割です。時と場合によっては逃げることも必要ですし、恥でもなんでもありません。その役割を他人や別の組織に期待すると、すれ違ったままで終わってしまい、不幸な事態になるかもしれないので十分に気を付けてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。