絶対に目が覚める時計【3000文字チャレンジ】

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こんにちは、霧島もとみです。

3000文字チャレンジをお届けします。

今回のお題は「睡眠」です。

人間が生きていくために必要不可欠なもの、それが睡眠です。

ある人は健康管理・パフォーマンス向上のために大事にしなければならないと言い、ある人は睡眠なんて構わずに行動しろと言い、どうやら人それぞれで捉え方が大きく違うもののようです。

私はどちらかというと「睡眠を削ってでも行動したい」派だったのですが、身体がもたなくなってしまい、不調をきたしてしまいました。そもそも、朝起きるのが何より大変でした。

睡眠時間を削っても何事もなかったように朝起きれたらなあ…
体の調子も悪くならなければなあ…

そんなことをよく考えていた気がします。

そこで今回の3000文字チャレンジでは、そんな私の願望をかなえる「目覚まし時計」の話を書いてみました。

どんなに寝るのが遅くても大丈夫!

そんな目覚まし時計がもしもあったら…?ということで、「絶対に目が覚める時計と題して3000文字睡眠をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

あ、もちろん時間を無駄にしてもいいよという方だけお願いしますね!

絶対に目が覚める時計

「最新科学であなたの脳を強制的に覚醒!決まった時間に絶対に起きられます!」

「安心の安全装置付き!」

「今日から安心の睡眠を!」

ネットで見付けた時は、嘘だと思った。

なんでも特殊な電磁パルスを脳に送り、強制的に眼を覚まさせる時計だという。しかも副作用もないらしい。装着者の脳波をモニタリングして分析し、最も効果的な刺激で起こすので大丈夫だとか。

「大事な会議の前でも安心して夜更かしできるようになった(会社員)」

「不定期な時間のフライトにも不安がなくなった(パイロット)」

商品を褒めちぎる利用者の声はお決まりで、やっぱり胡散臭く、逆に怪しくさえ聞こえる。

しかし待て。このサイトは前にも利用したことがあったはずで、その時の商品は宣伝された効果を確かに感じられて、情報に嘘は無かったと思う。

だとしたら「絶対に目が覚める時計」も本当かもしれない。そうなら絶対に欲しい。喉から手が出るほど欲しい。

寝る時間に関係なく決まった時間に起きられるなら、毎日がどれだけ有効に使えるだろうか。考えただけで興奮する。よし、騙されてもいい。買おう。

スマホの画面の「購入申し込み」と書かれた赤いボタンを押したのは、すぐのことだった。

******

ある出版社に勤めて5年目になる男がいた。名を三橋という。若くして剛腕ヒットメーカーとして知られ、担当した本は全て飛ぶように売れるという営業成績トップの異才だった。

口癖が「24時間仕事」という三橋は生活のほぼ全てを仕事に向けていて、昼は営業先や書店を回り、夜は作家や編集者、関係者たちとの会食や飲み会に飛び回っていた。

そんな彼は当然朝に弱く、定時通りに会社に来ることはレア。最近では昼前の出社も普通になっていて、それが暗黙のうちに許されていた。飛び抜けた営業成績が特別扱いの理由だったが、陰で反発する社員は多かった。

ところが、ある日を境にその三橋が急に変わった。定時の30分前には出社して、デスクに座る姿を見せるようになったのだ。

周囲はざわついた。あの三橋が定時に出社している。陰口を叩いていた大勢の社員たちは、見慣れない光景に困惑していた。

「どうしたんだ三橋。最近朝が早いみたいだが、大丈夫か」

課長の小野田が三橋に話しかけた。

「嫌だなあ課長。いつも『遅刻するな』『本が売れてるからって調子にのるな』って言ってたのは課長でしょ。大丈夫です。心を入れ替えたんですよ」

「そうだけどな、お前は、こっちの方が得意な営業マンだろ。こっちはどうなってるんだ」

「そっちはやめました。もうそんな時代じゃないんで」

「お前それで、売り上げが落ちたりしないのか?大丈夫なのか?」

三橋は笑い声をあげた。

「ハハハ。嘘ですよ。そっちは今まで通りやってます。ああ面白い。時間どおりに来るってのも、意外に楽しいですね」

三橋はさらに続けた。

「実はいいモノを手に入れまして。どんなに眠くても、朝バッチリ起きられるようになったんです」

******

三橋は時計の効果に心底驚いていた。

睡眠時間に関係なく、設定した時間になると嘘のように目が覚めた。しかも日中眠くなることもほとんどない。

1時間しか睡眠できなかった日でも、翌日に大事な商談を控えているのに飲めや歌えやで朝まで帰れなかった日でも、大丈夫だった。

「これは凄い・・・」

この時計さえあれば、どんなに寝るのが遅くても決まった時間に起きられる。つまり、心配なく夜の営業に集中できるじゃないか。しかも定時に出社すれば、邪魔だった反感や嫉妬もかわすことができる。

これは無敵じゃないか?

三橋は水を得た魚のように仕事に没頭していき、更に売り上げを伸ばしていった。その代償として睡眠時間は減る一方だったが、三橋は全く気にしなかった。

******

「おい三橋」

「あ、課長。どうしました?」

「どうしましたじゃない。最近痩せてるようだけど大丈夫か。無理し過ぎてるんじゃないか」

「大丈夫ですよ。売り上げも更に伸びてバッチリです。もう他の営業社員いらないんじゃないですかね、ハハハ」

「そうじゃない。お前の体のことだ」

「体のこと?」

「お前、ちゃんと寝てるのか?」

「もちろん寝てます。隙間時間をうまく使ってますからOKです」

「だけどなお前・・・」

「課長、この時間、無駄になるからやめましょう。それじゃあ」

三橋はそう言うと、足早にその場を離れた。

******

それから数日した夜、三橋はいつものように得意先との会食に出席していた。午前0時はとっくに過ぎていたが、終わりそうな気配は一向に感じられなかった。

その時三橋のスマホが鳴った。課長の小野田からだった。

「はい三橋です」

「まだ飲んでるのか」

「はい飲んでます。絶好調です」

「そうじゃなくて。明日の打ち合わせ、分かってるのか」

「分かってますよ」

「明日はマジで大きな案件だ。肝心のお前がいなきゃ話にならない。しかも先方は、絶対に時間にこだわる大御所だ。分かってると思うが、絶対に遅れるなよ」

「ハハハ。大丈夫ですって、絶対に遅刻しませんから。えっと、10時半でしたっけ?」

「10時だ」

そう言われた瞬間、三橋は軽い目まいを感じた。視界がぐにゃりと歪みそうになって、すぐに元に戻る。

「えっ・・・?あ、そうそう、10時でした。それじゃあ、よろしくお願いします。もう切りますよ」

「あっ、おま」

三橋はスマホをポケットに放り込むと、ちらっと時計を見た。午前2時を指していた。まだまだ時間はある。少々遅くなってもタクシーを拾って5時に家に帰ったら、1時間半は寝て、それから支度しても十分に間に合うだろう。

何しろ自分には「絶対に目が覚める時計」がある。

「三橋クン、どうしたの」

「あっ、ごめんなさい。ちょっと電話で。さあ、夜はまだまだ長いですよ!」

結局三橋が帰ったのは朝の6時を回った頃だった。「30分は寝られるな」と考えながら布団に横になり、目覚まし時計の設定を確認するとすぐに三橋は眠りに落ちた。

******

「あっ、三橋。大丈夫か」

眼を覚ました三橋の視界に飛び込んできたのは、課長の小野田の顔だった。

「えっ、なんで課長が?」

慌てて時計を探すと、目に入った壁時計の時間は7時を指していた。なんだ、心配した課長がわざわざ家まで来たのかと思ったが、周りの景色がどうも違う。

「よかった、意識が戻ったか」

小野田がほっとした顔付きで座っている。三橋は急な寝起きで頭が回らないのに、課長がいるわ、景色も違うわでかなり混乱していた。しかし今日はこうしてはいられない。

「用意しますんで、すぐ会社に行きましょう」

しかし、その肩を小野田が抑えた。

「いいんだ。もういい」

「何がですか?大きな案件だって、課長もわざわざ電話してきたじゃないですか」

そう言う三橋に、小野田が自身の腕時計を見せてきた。

「見てみろ」

「だから7時でしょ」

「違う、そこじゃない」

意味が分からず三橋は固まった。

「日付だよ。9になってるだろ。例の約束があったのは7日だぞ」

「えっ、じゃあ」

「そうだ。お前は完全に意識を失ってて、丸2日寝てたんだよ。ついでに言えばここは家じゃなくて病院だ」

「丸2日寝てた?」

「そうだよ。でも心配するな。先方も今回は特別にってことで、大目に見てくれた。その仕事も別の奴が引き継いでいる」

「えっ、それってどういう・・・」

「だからな。大丈夫。それよりお前はしばらく休め。本当に危なかったって、病院の先生は言ってたぞ。な、無理しすぎたんだよ」

「つまり、寝過ごしたってことですか?」

「お前、人の話・・・まあ、そういうことだ」
三橋はガバッと起き上がると、スマホを手に取っておもむろに電話をかけはじめた。

 

「ありがとうございます。先進のアイテムで日常を素敵に、マジマジ・ワンダーです」

「あんたのところの目覚まし時計、肝心なときに動かなくて寝過ごしたんだよ。どうなってるんだ!」

「それは申し訳ございませんでした。確認しますので、idとお名前をお教え下さい」

「アルファベットでmotomitsu777、三橋基彦だ」

「ありがとうございます。ただいま確認いたしますので少々お待ちください」

少しの時間のあと、再び電話の向こうから声が聞こえてきた。

「お待たせしました。確認したところ、お客様の目覚まし時計は正常に機能しております」

「正常だって!」

三橋は顔を赤らめた。

「確かに時計のおかげで、どんなに睡眠が短くたってスパッと起きられたよ。だけど、肝心なときに機能しなくて寝過ごして、おかげで大事な契約の話を取られたんだよ、どうしてくれるんだ!」

「それは7日の朝のことでしょうか」

「7日?ああ、そうだよ。7日だよ。その日は大事な契約の日だったんだ!」

「お言葉ですが、その日も時計は正常に機能しておりました」

「何を言ってるんだ!現に俺は寝過ごした。どこが正常なんだよ」

「はい。正常です。正常に安全装置が作動いたしました」

「あ、安全装置だって?」

「はい。マニュアルはお読みになっておられませんか?体の負荷が過剰に蓄積して、時計の機能が危険な影響を与える可能性を感知した時は安全装置が働くようになっております」

「安全装置で寝過ごしたってこと・・・?」

「はい。正常な動作です。私どもが一番大事にしているのは、お客様の安全ですので」

「だとしたら、何が『絶対に目が覚める目覚まし時計』だよ。安全装置が働くのなら、絶対じゃないだろ。嘘だろ、詐欺だろ!どうしてくれるんだ」

「いいえ、お客様。お言葉ですが、私どもの時計は、今回もしっかりとお客様の目を覚ましています」

「だから、どこがだよ!」

「ええ。仕事も大事ですが、死んでしまったら元も子もありません。そのことにお客様は気がついたはずです。つまり、目が覚めたんです」

言葉を失った三橋は無言で電話を切ると、力なくうなだれてそのままベッドへ倒れ込んだ。

(終)

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